xaleには二つの謎が存在している。
- xarleと書かないにも関わらず発音は[ʂa:le]
- NAAN単語であるために前置詞的でも、後置詞的でもある
- 由来が良くわかってない
これらを解決できる設定が出来たので書いておく。
まず、話は古リパライン語に遡る。古リパライン語にはkattaという自動詞があって、主語と補語を取って「~は~のようだ」という意味を表した。以下は、過去に使われた例文である。
"Shone hudosl's longiv fghpha's farl niguhato'd klikoino katta."
「素晴らしい人も長くは持たずそれは春の夜の夢のようだ」
(現:Xorlnem larta's veles niv cesnerto mal fqa's fir'd nukusu'd liqka xale es.)
このようにSOVの形でまず最初の主語を-'sで取って、それが補語に似ていることを表していた。
古典リパライン語の文の接続は現代リパライン語のように接続詞を必要としなかった。上の例文でも見られるように古典リパライン語では"Shone hudosl's longiv" 「素晴らしい人も長くは持たない」(この時代にコピュラのesはまだない、形容詞longivが述語扱いになっている)のあとに接続詞もなしに主語が続いているのに対して、現代語はmalを挟んでいる。文の接続や現代語の動副詞的な用法は、この時代では基本的に何も挟まれることがなかった。
時代が流れるにつれて古リパライン語の支配的語順はSVOとなった。古リパライン語では格接辞の省略は許されていなかった。語末に来て、格を取らない補語を取るこの自動詞の用法は次第に非文法的となって品詞が動詞から後置詞的になっていった。文の接続や動副詞的な用法では何も挟まれなかったがためにkattaは自然に後置詞的動詞になった。
"Velgano katta zelk's klumjnnoll."
「ヴェルガナのような敵が押し寄せてきた」
(現:Edioll velgana xale zirk kliemjn.)
このようにしてkattaは後置詞になった。
ところで、現代リパライン語やヴェフィス語の祖となった古リパライン語は実は標準的なエスプラタオ方言ではなかった。これらの元となったのはスキュリオーティエ叙事詩でデーノ藩国と呼ばれる東の大きな辺境の地域のデーノ方言であった。デーノ系の人間は非常に多く、近代国家が出来上がっていく上で強い文化的影響力を持っていたからと見られている。このデーノ方言には数(単数、複数、不加算)と定性・不定性で使い分ける定冠詞が存在していた。
冠詞 一つ 複数 数えられない
相手が既知 la lu lo
相手は既知ではない ls lc lv
中期リパライン語になるにつれて、この冠詞体系は廃れていった。この冠詞は現代リパライン語のla(名詞を明示する前置詞)やヴェフィス語のle(強調の前置詞)として残っている。しかし、デーノ方言の血を継ぐユナ・リパラオネ語派やヴェフィス語派では定性・不定性の文法的区別はそもそもなかった(現代リパライン語の-stan, -steは古ユナ語以降にできた)。
古リパライン語デーノ方言でもkattaの後置詞的動詞化は進んでいた。これと共に中期リパライン語になるにつれて定冠詞の存在が形骸化していた。デーノ方言のkattaの利用では"katta la 名詞"という語の連続が一般的であったが、これは中期リパライン語では"katle"という語形を生んだ。これは次のような過程を経て出来ている。
- 形骸化した定冠詞がkattaの語形の一部であると思われる。
- 一番一般的な形であるkattalaから母音が脱落して、katlaになる。
- 動詞であることを明確化させるためにkatlaに-e(動詞語尾)が付く。古典リパライン語のルールに沿い、語末母音が落ちてkatleという形になる。
この語形で中期リパライン語からヴェフィス語にchallais [ʃa:le]という語形で輸入された。ヴェフィス語派では一部の古典リパライン語の[k]が[tʃ]または[ʃ]に変化した。なお、ユナ・リパライン語派では[k]は[k]のままか、[s]になった(古典語 ci[ki] -> 現代語 ci[si])。このために第一音節の/k/はchになる。tlという子音クラスタは後方同化して、/ll/ [l:]になった。ヴェフィス語の長子音は古語には残っていたが、中期語では短子音化した。二音節目が/le/になっているのはこれに沿っている。語尾に付いている-sは発音されないが、中期リパライン語のコピュラesやヴェフィス語自身のコピュラesとの類推で語形に追加されている。第一音節が長母音になっているのは、ヴェフィス語のアクセント(後ろから二つ目の母音)が長母音かしやすいということに由来しており、これは子音クラスタである/tl/->/ll/が短子音化したことによる代償延長という意味で強化されていると言えよう。
ヴェフィス語ではkatle……後のchallaisは古語期では名詞と前置詞として混同していた。
-ai+子音語尾の単語は動詞としてはfaisクラス動詞、名詞としてはnaiクラス名詞に分類される。-aisはその中でも動詞にしても、名詞にしても良くある語形であったために名詞と捉えられ、名詞としては"名詞.属格変化 challaut 名詞"という形として古リパライン語でのkattaの後置詞的動詞の用法を残した。(challautの発音は[ʃaloː]になる。auが[ow]または[oː]であり、アクセントが移動するため。)
変わって、前置詞と捉えられたのはヴェフィス語からは後置詞という品詞が消えたためであった。ヴェフィス語や現代リパライン語が古い形を残したデーノ方言から派生したため、中期リパライン語の支配語順であるSOVではなくSVOを残していた。この語順に沿って後置詞ではなく前置詞が使われるようになり、もともと後置詞であった単語も前置詞になる場合があった。これは現代リパライン語においても発生しており、fua, fal(古:pal)は古典リパライン語では後置詞であり、前置詞になるのは古ユナ語からである。
このために後置詞的動詞の用法で完全に後置詞と捉えられていた用法からは修飾方向が反転してしまった。
"Infenaut challaut ĵouin kailaidèn."
"Ĵouin challais infena kailaidèn."
「棘のような何かが飛んできた」
(現:Infarna xale fhasfa klie, Fhasfa xale infarna klie)
この状態でこれらは古ヴェフィス語から古ユナ語に輸入された。しかし、ヴェフィス語と同じように名詞と前置詞という形で輸入されたのではない。以下のような変遷を経た。
1)まず、古ヴェフィス語において名詞としての使い方が"名詞.属格変化 challaut 名詞"という形で定着していたことで名詞用法から輸入されたxalorが輸入される。xalorは古ユナ語の音韻変化規則(下記参照、[o(ː)] -> [e]/[a,o]_____#)に沿ってxaleという語形に変化した。これは古理語やラネーメ祖語由来の単語の借用語などでも起こっており、challautの借用が比較的非常に古い段階であることが分かる。
allo -> alle
lnhuo -> anfi'e
selene poioo -> selfajie
wolki nov deo -> valkinde
*yujo(ラネーメ祖語) -> oje
*phoobo(ラネーメ祖語) -> perbe
2)"名詞 challais 名詞"という形の前置詞用法から輸入された音声通り、xarleという語形が輸入される。
古ユナ語は現代標準リパライン語の古語であり、現代語でこれらの単語は失われることなく使い続けられた。しかし、xaleとxarleは現代語に入って混同し始める。これはリパライン語の口語の例外発音の成立に由来している。現代口語リパライン語の例外発音にはアクセント母音が長母音化する規則がある(cf. 20181013版 文法書 1-6 10.)。これによってxarleがxaleの口語の例外発音を適用した形態として認識されるようになり、綴り上でxaleに収束していくことになる。この現象はxaceのような基礎的な単語にも起こっているので現代語の早期に始まっていると考えられるが、古ユナ語ですでにxaleとxarleが似たような語形になっていたため、そのままアクセント長音化の影響をもろに受けた。
この綴り上のxaleへの収束によって名詞用法と前置詞用法を由来とする双方の用法が一つの単語に一元化された。
現代標準リパライン語のxaleという単語はこういう流れで成立した。最初に挙げた謎にも以下のように答えられるだろう。
- xarleと書かないにも関わらず発音は[ʂa:le]
→もともとxarleとxaleの二単語が存在したが、口語の例外発音につられてxaleに一元化された。以後、xaleの第一音節は長母音で発音しても、しなくても良いことになった。
- NAAN単語であるために前置詞的でも、後置詞的でもある
→古ヴェフィス語にあった二つの用法が本来はxarleとxaleで使い分けられていたのに音韻変化でxaleに一元化されることでNAAN単語になってしまった。
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